当分野では以下のようなテーマで研究を進めています。
- 当分野では近年の高齢社会に伴う口腔疾患の疾病構造の変化によって増加している疾患や病態の解明にむけて、疫学的視点と実験医学的視点の両面からアプローチしています。また口腔と全身の健康ならびに低栄養・サルコペニア・フレイルとの関連性についてフィールドワークを通じて調査研究を進めています。現場第一主義がモットーで進めています。
- 当分野でとくに力を入れているのがフィールドワークです。臨床力をつけるためには、附属病院等での外来診療だけでなく、住民の生活という視点を磨いていくことも外来診療と同じくらい大事なことだと私たちは考えています。いわば、『フィールド歯科学』といったイメージです。
具体例
1.地域でのフィールドワーク
例をあげますと、福岡県豊前市での口腔ケア事業があります。平成27年にスタートした事業で、豊前市の後藤市長が『生涯現役社会の実現に向けて』というコンセプトで施策を進めておられ、そのことが本事業のきっかけになっています。
その他、近隣の小学校に出向き、唾液検査を行って、歯肉炎のリスクを判定したり、口腔機能向上を目的に舌体操のしかたを指導する、といった活動や北九州市内のバス会社の運転手さんを対象とした口腔と全身の健康についての調査等を行っています。これはシフト勤務といった、いわばソーシャル・ジェットラグが口腔や全身の健康状態にどのような影響を及ぼすかを調べるプロジェクトで文科省の科学研究費を使って研究を進めています。
2.海外でのフィールドワーク
フィールドワークは海外でも行っています。北アフリカのモロッコでの疫学調査を紹介しましょう。モロッコでは若年性の歯周病(侵襲性歯周病)が多く、風土病ではないかと言われてきましたが、詳細は不明です。そこで、現地の大学とコラボして実態調査を行ってきました。最近、地中海食のオリーブオイルの摂取状況と歯周病の病態の関連について論文を発表しました(J. Periodontal Res, 2021)。
3.早期がん発見に向けたイノベーション
当分野におけるもう一つの研究の柱は、唾液や口臭などの非侵襲的なサンプルを用いた早期がんの迅速診断マーカーの開発です。これは2021年度に開催される日本歯科医学会学術大会のメインテーマ、『逆転の発想 歯科界2040年への挑戦』のセッションの一つ、歯科臨床の現場で使える検査技術のイノベーションの講演に採択された研究テーマです。一般に『がん』というと、画像検査や血液検査を思い浮かべると思います。しかし、これらの手法は精密ではありますが、体に侵襲的であったり痛みを伴うといったマイナス面があります。また血液検査によってがんマーカーを測定することもありますが、検査結果が陽性だと実際には病態が進んでしまっていることも少なくありません。そうした背景を踏まえて、私たちは北九州市立大学エネルギー循環科の李教授と共同で研究を進めています。その一部は国際誌に掲載されました(J. Chromatograph B, 2019)。