非歯原性の悪性腫瘍である扁平上皮癌が歯肉に発生したものです。
口腔粘膜癌としては舌癌に次いで頻度は高いのですが、原因についてはよくわかっていません。
ただ、喫煙は一般的に癌の要因と言われており、他にう蝕や局所の不潔による歯肉炎や歯周炎が癌を発生させやすくしているのではないかという説もあります。


症状としては、
歯肉の腫脹(これがほとんどなのですが)、疣贅や潰瘍を形成するものもあります。
また、早い段階で顎骨の浸潤破壊をきたす
ため歯の動揺を生じます。
そのため、歯周病かな?と思って来院される患者さんもおられるようです。


診療所で一般的に行われる重要な検査の一つがエックス線検査です。
エックス線写真ではどのような特徴があるのかを挙げてみたいと思います。


 

<右側下顎第二小臼歯部に発生した歯肉癌>

1. 境界不明瞭で辺縁不規則な骨浸潤像
2. 歯槽骨が破壊された病巣内に小骨片が残存していることがある
3. 骨硬化像は見られない
4. 局所的、単発的に見られる

歯周病と歯肉癌の鑑別についてはこちら

なぜこのような所見が現れるのでしょうか?
まだその機序については詳しくは分かっていないのですが、現在考えられている説をご紹介したいと思います。

 


なぜ骨転移、骨浸潤が起こるのかというのは説が二つあります。

  1. 癌細胞はもともとへテロの細胞集団であるため、高頻度に骨転移する癌は転移能の高い細胞集団を多く含んでおり、その細胞集団が骨に転移する。

  2. 全ての癌細胞は骨に到達する能力を持っており、後天的に骨内の環境で定着、生存、増殖することのできる癌細胞のみが残るというもの。
このように癌細胞は骨に浸潤すると考えられているのですが、それだけで骨の吸収が起こるのかというとそうではないようです。
骨の破壊は癌細胞により直接引き起こされているのではなく、破骨細胞を介して起きているというのが現在最も有力な説のようです。
おそらく口腔扁平上皮癌自身がサイトカインを産生することにより顎骨浸潤するのではないか、また、口腔扁平上皮癌の顎骨浸潤はほかのサイトカインの発現がRANK-RANKL経路を経て破骨細胞に働きかけるのではないかと現在考えられています。



参考文献
 野村武史:顎骨浸潤能を獲得した口腔扁平上皮癌の特性を探る.歯科学報,105(1):13-21
 柴原考彦:下顎骨浸潤能をもつ歯肉癌 -破骨細胞誘導サイトカインの役割- http://www.tmd.ac.jp/mri/coet/Publications/coesympo7shouroku.pdf