問題はいかがだったでしょうか?
典型像、そしてちょっと分かりにくいものをピックアップしてみました。
今回のティーチングファイル作成のコンセプトは「鑑別の難しい歯周病と歯肉癌の読影の指針を見つけよう」というものでした。

まず足がかりとして、医学的にはどのように鑑別する指針が設けられているのかを調べました。
その結果「歯周病と歯肉癌の鑑別」のページで紹介している表のような指針があることがわかりました。
では、なぜこのように明確な指針が設けられているにも関わらず、この二つの疾病の鑑別は難しいと言われるのでしょうか。

我々は実際に歯周病または歯肉癌と診断されたX線写真を見てみることにしました。
そこから感じたことは、X線写真で見る像はイラストのようにクリアなものばかりではないためテキストの指針を覚えていても、それを判断するのは困難だということです。
読影に慣れていない我々ではどの症例の写真かを知っていても、「言われてみれば」という心もとない状態でした。
そのためエックス線写真と読影結果を見比べながら、臨床の先生方の読影方法を少しずつ勉強しました。

それでは、今回の研究室配属でどう学んだのかを紹介していきたいと思います。

はじめにどこに着目するといいのでしょう?
それは辺縁の骨の高さに対する病変部位の骨吸収量です。

歯周病であれば、多くの場合水平的に骨が吸収されるため、数歯に渡って同等に骨が吸収されています。
一方、歯肉癌では一歯二歯程度の範囲に局所的に、そして単発的に周囲の骨レベルに比して明らかに下がっている所見がよく認められます。


但し、歯周病の場合も局所的・単発的に骨レベルが下がっているものも見られます。case3のような例がそうですね。
この場合はどのようにして歯肉癌と見分けたら良いのでしょう?
もちろん、解答ページに書いたような所見で見分けますが、写真を見ながら異常所見の経緯を考えてみるのも良いでしょう。
case3は垂直的に骨欠損が起こっています。つまり「局所的、単発的に骨破壊像」みられます。
それだけならば鑑別の指針では歯肉癌ですが、 辺縁は比較的きれいに見えますし、全体的にクリアな印象を受けます。
癌ではないのではないか、と思えたときに「このような欠損がどうして起こったのか」と考えてみます。左側下顎第一大臼歯が少し挺出しているように見えますね。
デンタル写真だけからは確かなことは言えませんが、歯の提出、垂直性骨吸収、というキーワードから対合歯と早期接触が疑われ、そのため根尖部組織が外力により吸収してしまっているというストーリーも浮かんできます。

他にも、隣在歯が欠損していると、歯並びが乱れ外力が加わりやすくなり、清掃がむずかしく、歯周病が進行しやすくなります。
口腔内の衛生不良によって歯周病が起こりやすいため、常に歯周病による重度歯槽骨吸収と歯肉癌との鑑別を頭において読影をすると診断により自信を持てると思います。
case5もそのような写真といえるでしょう。

また、歯肉癌であれば発生部位が歯槽頂部のため欠損部に沿って円を描いたときにその円の中心部が歯槽頂部に存在します(歯槽頂部の骨浸潤による骨欠損の間口が広い)。

ここまでは、歯周病か歯肉癌かという分け方で見てきましたが、両方というものも存在します。
case4、case7などがそうですね。
case4はデンタルエックス線写真だけ見ればすぐに、浮遊歯が見られる、小骨片が見られる、骨欠損辺縁が不規則である、といったことが目に付きますが、全体的に骨レベルが下がっているという所見も見受けられます。
case4は歯周病の人に歯肉癌も発生しているという症例なのです。
そうなのです、「歯肉癌について」のページにも書きましたように、歯周病(慢性炎症)も歯肉癌のリスクファクターになるので、歯周病と歯肉癌が同時に見られるという症例は少しも不思議ではありません。

今回の目的は「歯周病と歯肉癌のエックス線写真でより明確な鑑別指針を探ろう」というものでしたが、結果から言ってしまうと、残念ながら「これ!」といった明文化できるようなものを見つけることは叶いませんでした。
しかし、それぞれの疾患の特性を頭におき、様々な起こりうる状況を想像する訓練をしていれば、鑑別する力を十分に養っていけるのではないかと思います。
もちろん、診察はエックス線写真だけで行うものではありません。他の診察を行うことで、より診断を確実なものにしていくのですが、エックス線所見が重要な診察項目の一つであることに違いはありません。


このティーチングファイルが、皆さんの勉強の一助になれば幸いです。