当研究室で行っている実験手法
以下、それぞれの実験法はすでに専門書に詳しく紹介されています。
ここでは、我々の実験紹介を交えた形で述べさせていただきます。
- 脳スライスを使ったパッチクランプ法
主にラット、マウスの脳弓下器官神経核のスライス標本を作製して、実験を行っています。この部位は、脳内でもスライス標本作製の困難な部位であり、熟練を必要とします。この神経核のスライスが作製できれば、たいていのほかの神経核を含んだ脳スライスを作製することが可能だと自負(?)しています。
この標本に対して、主にブラインドパッチクランプにて記録を行っています。直視下でのパッチクランプのセットを組むことも可能です。現在はこの方法にて、シナプス電流(自発性、miniature、誘発性EPSC, IPSC等)を記録しています。もちろん、シナプス後膜側での反応も記録しています。現在の所、世界でも脳弓下器官でシナプス電流記録に成功しているのは、我々の研究室だけです。
脳弓下器官スライス標本作製プロトコール
- 分散・培養細胞を使ったパッチクランプ法
中枢神経細胞だけではなく、末梢神経細胞(三叉神経節、後根神経節)についても、実験を行っています。シナプス後膜側での反応を目的に記録する場合は、上記のスライス標本におけるシナプス電流や神経細胞周辺のグリア細胞等の影響を無視する事ができません。そこで、その欠点を補うべく、酵素処理により細胞を1つ1つ単離し、純粋にシナプス後膜側での反応を記録できるようなシステムです。脳弓下器官は上記の様にスライス作製が困難であるため、世界的にはこの単離細胞でパッチクランプ記録された実験がほとんどです。それらの報告と条件を似通わせる事は、非常に有用であると考えています。また、我々の用いている分散・培養処理はもともと末梢神経細胞の処理に使われていた方法であったため、感覚1次神経細胞からの電気記録を行う事も可能です。
分散培養プロトコール
- 脳室内カニュレーションによる薬物刺激
脳は血液脳関門があるため、末梢に薬物を投与しても中枢へ作用しません。そこで、直接脳室内にカニューレを装着し、脳に対して薬物作用させる方法です。脳弓下器官は、第3脳室前壁に半球状に張り付いた神経核ですから、薬物に対して十分に反応していると考えられます。また、脳弓下器官は、血液脳関門が欠如している神経核の1つですので、末梢への薬物投与による反応を、拮抗薬をあらかじめ脳内に作用させて抑制されれば、脳血液関門が欠如した神経核の関与を示唆できるという実験理論が適用できます。
ラット側脳室カニュレーションプロトコール
- in vivo麻酔下での血流・血圧測定
末梢血流の変化は、末梢組織の機能に変化を及ぼします。例えば、唾液腺への血流量の増減は、唾液分泌の増減に対応します。我々は、この唾液腺だけではなく、他の組織血流も測定しています。血流測定の原理は、レーザー光を当てて血球等により反射されてきた光との波長のずれを計測するという、ドップラー効果を応用したものです。そのためプローブの固定が重要になりますので、麻酔下で実験を行わざるを得ません。また、血流変化は血圧・体温変動の影響を受けますので、同時にこれらをモニターする必要があります。麻酔下では、ほっておくと体温が下がり続ける傾向がありますので、体温コントローラーを用いて、動物の体温をほぼ一定に保つ事が可能です。
- in vivo無拘束下での唾液分泌量測定
この方法は、現岡山大学口腔生理学教授の松尾龍二先生が開発された方法です。ラット唾液腺導管にポリエチレンチューブでカニュレーションを行い、唾液分泌によチューブ内の圧変化を検出するという方法です。これにより覚醒下にてリアルタイムに唾液分泌量を測定する事ができます。我々はこの方法を用いて、食事の性状による耳下腺唾液分泌の変化と全身性浸透圧刺激による唾液分泌速度の低下を観察しました。また、上記の脳室内カニュレーションと組み合わせる事によって、脳への浸透圧刺激だけでも唾液分泌速度が低下する事を突き止めました。
- 免疫染色法(c-fos, 各種受容体等)
脳切片に対して、各種受容体だけではなくChaT抗体やGABA抗体を用いた神経伝達物質の免疫染色も行っています。我々はこの手法を電気生理学の実験から得た情報の確認として、付属的に行っています。また、この実験を行う際はスーパーアドバイザーとして、当大学解剖第2講座の先生方に協力していただいています。我々がよくルーチンとして行っているのは、c-fos蛋白質の免疫染色です。この蛋白質は、神経細胞が興奮して活動電位を発生すると一過性に発現する性質を持っていますので、脳室内カニュレーションと組み合わせる事によって、脳内薬物刺激後のc-fos蛋白発現量が無刺激群より増加しているかどうかを調べています。
組織染色プロトコール
- RT-PCR法
PCR法は、特定のDNA鎖を連鎖的に短時間で大量に増幅させる方法です。これにRNAを逆転写するという作業と組み合わせる事で、目的のRNAの存在を確認する実験法です。受容体のサブタイプの同定等は、電気生理や免疫染色ではかなりの労力を必要としますが、RT-PCR法はそれらに比べて安いコストで短期間にある程度の結果を得る事ができます。これは結果的に電気生理や免疫染色実験を効率的に行わせてくれます。そのような利点から、最近取り入れた手法です。また、単一細胞からのRT-PCR法(single-cell RT-PCR)を行えれば、パッチクランプと組み合わせる事でより詳しい解析ができると期待しています。
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