期−出席番号 (例:50−120) 抜歯の判定基準 現在のところ、歯の保存の可否を判定する明確な基準はない。これには、それぞれの歯の歯周組織支 持の量、解剖学的形態、歯周組織の治療に対する反応性、補綴的・機能的な要求度、口腔清掃のしやす さ、患者の協力度と要求、術者の技量などの様々な要素がかかわり、最終的には術者の総合的な判断に 任されている。しかし一般に、次のような事項を考慮して、保存の是非を検討すべきである。 (1)抜歯の際に参考にすべきこと a.支持歯周組織の量 その歯がどの程度の負担に耐えられるかの直接的な判定因子は、歯槽骨の支持量である。これは、 レントゲン、付着レベルなどで判定する。水平的な骨吸収が歯根長の2/3以上に及ぶ場合には、一般 的に保存は困難になる。しかし、垂直型骨吸収の場合には、適切な歯周治療により歯槽骨の再生が期 待できることもある。また、歯槽骨吸収が歯内病変に由来する場合には、歯内療法によって短期間に 大幅な骨の改善が見られることがあるので注意を要する。 b.プロービングポケット値 (Probing pocket depth) インストゥルメント到達不能なポケットが存在しているか、また根尖に達したポケットが存在する かは、重要な判定基準である。ポケットが根尖に到達している場合には、治療は困難であることが多 い。 c.動揺度 (Mobility) 一般的に、動揺度が大きいと抜歯の対象にされる。しかし、動揺は必ずしも不可逆的なものではな いので、炎症と外傷性咬合を除去した後、判定を行うことが望ましい。 d.歯根の形態 (Root morphology) 歯周ポケットや骨欠損が、根分岐部や根面溝に関連している場合には、一般に予後は悪い。また、 分岐部病変を有する歯では、1根ごとに保存の可否の判定を行う必要がある。 e.総合的な判断 著しく歯周組織を失っている歯を保存することと、咬合機能上のメリット、補綴処置に関わるメリ ット、デメリットを総合的に判断して抜歯を選択する場合もある。 (2)抜歯時の注意 歯周疾患により抜歯になる場合には、一般に動揺のために容易に抜歯できるが、抜歯後の口腔衛生の 確立のために、次のような点に留意して抜歯を行うべきである。 a.抜歯と同時に、隣在歯の歯周組織の再生のため、できるかぎり隣在歯のスケーリング・ルートプレ ーニングを行う。 b.治癒形態を整えるため、歯槽骨鋭縁や歯槽堤の凸凹を整形する。 c.最後臼歯の抜歯の際には、その部に厚い歯肉を残さないようする。 (3)患者へのインフォームドコンセント 歯周治療を受けている患者は、可能な限り歯を保存することを望む場合が多い。この場合、たとえ医 学的に保存不可能にみえても、患者の納得なしに抜歯を行ってはならない。抜歯に際しては、インフォ ームドコンセントが得られていることは必須であり、また基本的には患者の意志を尊重することを忘れ てはならない。 保存に判断に迷う歯に対して、歯周治療を試みて暫定的に観察したり、保存不可能ではあるが、一定 の治療が進むまで抜歯を延期する場合もある。このような場合には、必ず患者に前もって将来抜歯にな る可能性を説明し、カルテに記載しておくことは、治療をスムーズに進める上で重要である。
back